2018年9月16日、Major League Baseball(以下、MLB)では、ロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平選手が20号ホームランを記録するなど、日米ともに、その注目度が高まっています。そんなMLBでは世界のプロスポーツの中でも最先端の機械学習を活用したデータ革命が起きています。では、そのデータ革命の要因となった”機械学習”とは具体的に何なのでしょうか。今回はMLBで加速するデータ革命を機械学習の活用例から見ていきます。

1.機械学習とは

機械学習(英: machine learning)とは、人工知能における研究課題の一つで、人間が自然に行っている学習能力と同様の機能をコンピュータで実現しようとする技術・手法のことです。

機械学習の活用例

機械学習の技術は現在ありとあらゆる市場に拡大を広げていますが、スポーツの領域で注目を集めていたのが、AlphaGo(アルファ碁)です。AlphaGoは、「Google DeepMind」によって開発されたコンピュータ囲碁プログラムであり、 2015年10月に人間のプロ囲碁棋士を互先(ハンディキャップなし)で破った初のコンピュータ囲碁プログラムとなり話題となりました。

このように、スポーツ領域においても機械学習の席巻は目覚ましいものがありますが、ここではまず、そんな機械学習の基盤として使用されるクラウド市場について見ていきます。

機械学習の市場規模

米調査会社のCanalysによると、2017年第4四半期において、クラウドインフラサービスに対する世界全体の支出額は156億ドルで、前年同期の107億ドルに比べ46%増でした。2017年通期では、前年比45%の増加をしています。

機械学習基盤の主要ベンダー

2017年第4四半期の状況をベンダー別にみると、シェアトップは引き続きAmazon Web Services(AWS)で、市場全体の32%を占めています。これにMicrosoft(14%)、Google(8%)、IBM(4%)が続く状況です。これら上位4社はいずれも増収で、それぞれの前年同期比はMicrosoftが98%増、Googleが85%増、AWSが45%増、IBMが9%増という状況です。

では、次にMLB(Major League Baseball)によるデータ革命について見ていきたいと思います。

 

2.アメリカMLB(Major League Baseball)で起こった「データ革命」

MLBによるデータ革命とは?

MLBにおけるデータ革命は、以下の大きく2つと言われています。

1. プレイヤートラッキングシステム (Statcast)の開発
2. TV放送、WEBサイト、アプリ等あらゆるチャネルでのリアルタイムデータ配信システムの構築

1. プレイヤートラッキングシステム (Statcast)の開発

まずはプレイヤートラッキングシステムのStatcastから見ていきます。MLBでは、2015年にスタットキャスト(Statcast)と呼ばれるシステムがMLBアドバンストメディア社(以下、MLBAM)によって、MLBの全本拠地球場に導入されました。Statcastの導入によって、以下のようなデータがプレーと同時に瞬時に取得できるようになりました。

<Statcastによって、取得できるデータ項目の例>
▼投球
・リリースポイント
・球速
・体感速度
・回転数
▼打撃
・打球速度
・打球角度
・打球方向
・打球距離
▼走塁
・リード距離
・第二リード距離
・スタート
・加速
・最高速度
▼守備
・始動時間 (最初の一歩)
・打球を追う速度(外野手)
・打球を追う走路(外野手)
・送球速度
・捕球から送球までの時間

その結果、各球団ではデータを活用した野球が全盛となり、バレル(時速158キロ以上、角度30度前後の打球はホームランの確立が高くなる)という指標が開発され、2017年MLBでは史上初めて、6,000本を超えるホームランが生まれました。

(出典:http://m.mlb.com/glossary/statcast/barrel)

また、このようにデータが取得・活用されることによって、今年2018年はオープナー制という新戦術まで現れました。

▼オープナー制
オープナー制とは、タンパベイ・レイズが2018年5月19日から使用し始めた、中継ぎ・抑え投手を初回に起用する戦術です。MLBでは通常先発投手が6-7回前後まで登板し、その後中継ぎ投手、抑え投手と継投する方法が一般的です。しかしMLBでは1-2番の打順に好打者を配置する戦略が定着していることから、先発投手の初回失点率の高さが課題となっていた。そこでレイズは、勝ちの計算ができる先発投手以外が登板する日については、主にオープナー制を採用し、チーム防御率を下げることに成功しました。(5月19日以前は30球団中22位の防御率4.43でしたが、2018年シーズン終了時には防御率3.74まで改善しています。)

このようにデータが取得・活用されることによって、スポーツの戦略自体が根本から変わることもあるのです。

2. TV放送、WEBサイト、アプリ等あらゆるチャネルでのリアルタイムデータ配信システムの構築

続いて、データ配信システムの構築についても見ていきます。MLBを運営するMLBAMでは、Statcastの開発を継続し、AWSの機械学習サービスを利用して、すべてのゲームプレーヤーのパフォーマンスを分析する基盤を構築しました。このAWSの分析基盤を使用することにより、1試合平均 7TBほど発生するデータを、随時受信してから数ミリ秒以内に分析が行われる仕組みを構築しました。その結果、プレーが完了してから 12 秒以内に生のメトリクスとビデオを放送局に配信することが可能となっています。

(出典:https://aws.amazon.com/jp/solutions/case-studies/major-league-baseball-mlbam/)

ファンにとっては、TV放送、WEBサイト、アプリなどあらゆるチャネルから、リアルタイムでチーム・選手の情報にアクセスすることができるようになり、UXが大幅に向上したと言われています。それに比例するように、MLBでは、2017年に総収益100億ドルを突破しました。

以上のように、球団・選手だけではなく、ファン・メディアにとっても、データ革命によって、野球の楽しみ方が大きく変わることとなりました。

3.プロスポーツ領域におけるデータ活用とは?

これまでMLBにおけるデータ革命の流れを説明してきました。改めて球団・クラブ・選手視点からのデータ活用と、ファン・メディア視点からのデータ活用について、おさらいします。

球団・クラブ・選手視点のデータ活用

球団・クラブ・選手の視点から、データ活用を見ていった場合は、球団・クラブが勝つためのデータ分析・活用が考えられます。MLBでは、先程紹介したバレルという指標以外にも、打者毎の打球方向に関するデータが細かく取られている為、守備側は従来の定位置に守ることはせず、打者毎に守備位置を変える「守備シフト」を敷くことが主流となっています。その為、球団・クラブ側としては、よりデータを活用し、戦略的なアドバイスが出せる人材を集め、選手も自分のデータを客観的に分析し、即座に次のプレーに活かすという資質も求められています。

ファン・メディア視点のデータ活用

ファン・メディア視点から、データ活用を見ていった場合は、より多くの情報、パーソナライズされた情報に触れることができるようになります。一昔前のファンは自ら球場・スタジアムに足を運び、能動的にデータを取得するか、テレビ・新聞・ニュースサイトからデータを取得することしかできませんでした。

しかし、パーソナライズされた情報に触れることができるようになると、特定のチーム・選手の情報をテレビ・WEBサイト・アプリから欲しい時に入手することができるようになります。その為、ファンはより多種多様なスポーツの楽しみ方をすることができるようになり、メディアはより地域・個人に特化した記事・サービスを作りやすくなることが予想されます。

4.機械学習×プロスポーツの今後の展開

機械学習×プロスポーツという切り口でここまでご説明してきましたが、最後に既存のプロスポーツで既に活用されている3つの事例を取り上げ、今後の展開についても見ていきたいと思います。

サッカー「FIFA EPTS」リアルタイムトラッキングシステム

国際サッカー連盟(FIFA)は2018年5月16日、サッカースタジアムに設置したトラッキング(追跡)システムなどが取得したプレーのデータを各チームがリアルタイムに活用するシステムの導入を発表しました。サッカーのルール制定などの重要事項を決定する機関である国際サッカー評議会(IFAB)が、小型の携帯端末をベンチに持ち込むのを認めたことを受けての決定でした。

W杯ロシア大会では、各チームにFIFAが公認したタブレット端末が2台提供されました。1台はスタンドから試合をチェックするチームのアナリスト(分析官)向けに、もう1台はベンチにいるコーチ陣向けです。トラッキングシステムは2台のカメラを使用するもので、選手とボールの位置データを取得します。統計処理をしたデータとライブの映像はアナリスト向けに設置されたサーバーに転送され、タブレットのアプリでそれらを参照できます。

また欧州サッカー界では、最近パフォーマンス分析官を配置しているチームが増えています。主な仕事としては、試合前における相手チーム分析、試合中のデータ収集と分析、試合後のレポート作成、そして平日に行われる練習時の分析と大きく4つに分けられ、選手の技能向上に一役買っています。

バスケットボール「NBA SportVU」トラッキング(追跡・データ化)システム

NBAでは2013-14年シーズンから、SportVUというカメラによるトラッキング(追跡・データ化)システムを導入し、選手やボールの動きの軌跡を毎秒25回も測定し、ボールの高さ等を計測しています。SportVUはイスラエルの企業によりミサイル追跡の技術を転用して開発されました。

位置情報を用いて、各選手の移動距離や速度だけでなく、例えば「選手がボールを2秒以下保持し、ドリブルせず、10フィートを超えた距離からジャンプシュートをした回数や成功率」のような、より詳細なデータを取得することが可能となっています。セイバーメトリクスで培われた考え方に強く影響を受けながら、これらのデータを活用し、バスケットボール独自の指標を開発しています。測定されたデータと分析レポートは各チームに即座に提供され、ファン向けにもNBAのサイトで分析結果が公開されています。さらに、トラッキングデータ自体は各チームに提供されているので、各チームでは一層高度な分析に取り組んでいます。

また、NBAでは3P全盛期となり、3Pの成功率が選手の市場価値に大きく作用するようになりました。その背景としては、上記のトラッキングシステムの普及により、様々な位置からの「得点期待値」が数値として可視化されるようになった為と言われています。

(出典:https://www.stats.com/sportvu-basketball/)

女子テニス「SAP Tennis Analytics for Coaches」

SAP社は「SAP Tennis Analytics for Coaches」というアプリケーションを通じて、選手やコーチに試合のデータを提供しています。コートに設置された8台のビデオカメラ(他に2台が選手の動きをトラッキング)でボールをトラッキングするHawk-Eyeの生データをクラウド上に集積し、選手やコーチから要望の多かったデータや分析結果を専用アプリ上で表示し、データは15秒に1回更新されます。

コーチはオンコートコーチングの際に、WTAが公認したiPadをコート上に持ち込んで、選手にアドバイスできます。アプリ上で参照できるのは、試合のテレビ放送でもよく紹介される、サーブの確率やウィナー(ラリーで相手にボールを触れられずに取ったポイント)、アンフォーストエラー(自分からミスをしたショット)の本数などのほか、サーブを打った方向(フォアサイドかバックサイドか)、フォアとバックのストロークについてコート上のどこから打って、相手コートのどこに着地したかなどがボールの軌道で示されるデータです。

上記のようなデータを活用することで、女子テニス世界ランク3位(2018年10月1日時点)のドイツ:A.ケルバー選手は、「試合前に対戦相手のデータを見たり、試合後はデータでその日のプレーを振り返ったりする。データは私に、より自信を持たせてくれる。5~10%は実力が上がっている感じがしており、これは世界のトップレベルでは重要なこと」と述べています。

(出典:https://designawards.core77.com/Strategy-Research/49775/SAP-Tennis-Analytics-for-Coaches)

まとめ

以上のように世界的には、機械学習×プロスポーツというカテゴリで、チーム・選手だけではなく、ファンに対してもデータを活用したサービスを展開している企業が多く出てきています。

日本においても、現在進行形でスポーツテックの分野で、スタートアップや大企業の取り組みがクローズアップされていますので、今後も目が離せません。

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Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

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