本記事は、”【前編】最新のエンターテイメント業界動向から紐解く”体験価値”を高めるマーケティングとは“の後編にあたる記事になります。
まだご覧いただいていない方は、ぜひ前編からご覧下さい。

c)スポーツ等の興行ビジネス

スポーツ産業に関しても2012年から2020年までで、スタジアム・スポーツの興行ビジネスにおいて2.4兆円~3.7兆円の規模になると推定されています。もちろん、東京オリンピックがあるので、正しく評価ができないという意見もあるとは思いますが、例えばプロ野球単体で見ても、2012年までは頭打ちになっていた市場が、この数年で劇的な成長を遂げています。

では実際に、各球団はどのような取り組みをしているのでしょうか。例えば横浜DeNAベイスターズ。2017年シーズンで、球団史上最多となる約198万人の観客動員を記録し、ファンクラブ会員数は、2011年と比較して13.6倍になっています。

この背景には、球団のプロモーションの努力があります。 “アクティブサラリーマン”にフォーカスをしながら、ライトな顧客を取り込み、大幅に集客を拡大することに成功をしました。居酒屋の延長のように、「飲みながら試合を見る」という体験価値を提供したことで大幅に動員を増やしています。あくまでこれは一例ですが、毎試合の花火や、ファンにユニフォームを配る特別な日を作るなど、とにかくファンが楽しむ仕組みを作り続けています。

また、昨今話題になった「カープ女子」を生み出した広島東洋カープはどうでしょうか。実は、広島東洋カープは2000年代前半には集客が伸び悩んでおり、チームとしても低迷していました。しかし、2009年に新球場「マツダスタジアム」が誕生したのを皮切りに集客を伸ばしていきます。

例えば、客席は旧球場よりひと回り大きく、スタンドのこう配を緩やかにして、ゆったりと試合観戦ができるようにしました。客席の種類も、プレーをより間近で味わえる「砂かぶり席」をはじめ、食事を楽しみながら観戦できるテーブル席やパーティーフロア、横になって観戦できる「寝ソベリア」などがあり、多彩な観戦スタイルを提供しています。

こうしたハード面の整備によって、以前よりも客層を変えることに成功しました。加えて、グッズの種類を大幅に拡充するなどソフト面も強化します。レプリカユニホームのほか、選手の拳をかたどった手形貯金箱などヒット商品が続々登場していますし、短期間の企画・製造・販売を可能にするため専用の工場も持っているほどです。さらにこれらのグッズには、名入れができるサービスも展開されており、まさに一人一人の想いに応える商材を展開しています。

このようなグッズの充実ぶりが、おしゃれに野球観戦を楽しむ「カープ女子」誕生の後押しとなっているのです。

これまでエンターテイメント業界の動向を簡単にご紹介してきましたが、共通して言えることは、デジタルが加速化する時代だからこそ、リアルな、五感で感じる体験を提供する市場が伸びており、各人に寄り添ったサービスが展開されているということがわかります。また同時に、成功している企業は、体験価値提供の強化に取り組み続けているのです。

3.顧客に体験価値を提供するめに必要なこと

では、これまで述べてきたように、顧客に最良な体験価値を提供するためには何が必要なのでしょうか。前提として、エンターテイメント企業の多くが共通して大事にしているものがあります。それは、「人が提供するサービスの価値そのもの」、です。

例えば、プロ野球の興行。いろいろなユニークな施策はありますが、これらはすべて人が考え、そして人が提供しています。「こういった人はこんなニーズがある」、「こんなユニークな企画があったら面白い」というような担当者の想いからでしか魅力的な施策は生まれません。

テーマパークのビジネスも同様です。もちろんアトラクションそのものに魅力を感じることもあると思いますが、その場での人との触れ合いや、キャストとのコミュニケーション等が、より特別感を醸成しています。つまり、エンターテイメント業界における感動体験の創出のためには、「お客さんにこんな想いをしてほしい」、「こういうことがあったら楽しいだろう」、という作り手側の感覚が非常に大事になってくるのです。これはデジタル化が進む現在においても完全に代替の利くものではありません。

では、完全に人の手によって、事業運営すべてが行われるべきでしょうか。答えは、Noです。当然、企業経営である以上、継続的に利益を生んでいくことは必要不可欠です。そうした場合、すべてを人の手に委ねることは、企業リソースの観点からも現実的ではありません。つまり、”必要なところは人の手に委ね、不必要なところは人の手以外、つまりテクノロジーなどを活用して効率化していくこと”が非常に重要な考え方になります。

では、どのような領域においてテクノロジーを活用するのがベストなのでしょうか。まずは、施策アプローチの考え方についてまとめます。

①市場調査・分析 ②仮説構築 ③施策の実施 ④施策の分析

この4つのステップが非常に重要となってきます。この中で、②仮説の構築と、③施策の実施の一部については、先ほどお伝えした通り人の力が必要になります。

では、①市場調査・分析の部分、④施策の分析をする部分はどうでしょうか。

まず、顧客に感動を与えるためには、その顧客のあらゆる行動をまず知っておく必要があります。顧客がいつ、どこで商品を見て、どこで買ったのか。このような、あらゆる情報を見えるようにしておくことが重要です。ここは必ずしも人の力が必要になる領域ではありません。顧客を知るためには、スマホやPC関係なく、顧客に関するオンライン、オフラインの情報なども横断的に収集して、顧客単位で見ることができる統合基盤を構築しておくことが重要です。

また、分析も同様です。あらゆる施策を分析できるよう、顧客の流れをデータとして保有しておくことが非常に重要になります。例えば、プロ野球の興行などを例にとります。よくあるデータとしては、

・ファンクラブの会員情報(年齢や性別、好きな選手の情報など)
・ECで購入したグッズ情報、チケット情報
・サイトでのアクセス情報(選手のウェブページ)
・球場での購入情報(フードやグッズなど)

これらのデータを横断的に顧客単位で分析できるような基盤を持ち、あらゆる嗜好性がわかる土壌を作っておくことが重要です。

施策についても、テクノロジーが活用可能な領域があります。サービスを人が提供することは非常に重要ではありますが、テクノロジーを活用できるところはどんどん活用していきます。顧客の属性や特性に応じて、アプリやLINE、メールなどを活用した複雑なコミュニケーション設計は、テクノロジーの活用がない限り、なかなか実現が難しい領域です。

土台として、基盤をテクノロジー側で構築しつつ、施策の検討や実施などはテクノロジーと人的リソースを融合させたコミュニケーションをとることが非常に重要となっています。

4.エンターテイメント業界からの横展開

実は、こういったマーケテイングの考え方は、エンターテイメント業界だけの考え方ではありません。例えば、「オムニチャネル」という言葉がありますが、これもすべて同じことを表現しています。例えば、先ほどお話をした、プロ野球の興行の例を挙げると、

・チケット購入情報→ECでの購入情報
・球場での購入情報(フードやグッズなど)→店頭での購入情報
と置き換えることが可能です。

店頭・ECでの顧客の購買行動を横断的に捉え、顧客体験を最大化させるというアプローチは、まさに「オムニチャネル化」という言葉そのものになっています。
顧客を店頭に導き、その体験価値を最大化させる。
一度来た顧客に対して、ECに誘導し、定期的に顧客のロイヤリティを上げていく。
この考え方はスポーツでの考え方と全く同様です。

言い方を変えると、エンターテイメント業界での成功というのは、いわば、「高度なオムニチャネル化の成功」と表現することが可能です。

エンターテイメント業界における成功企業は、どうやって体験価値を上げるか、ということを徹底的に追求している企業です。この考え方自体は、B2Cでサービスを展開・強化していく企業であれば、より一層必要になる考え方と言えるでしょう。

本稿にて、エンターテイメント企業の取り組みの一端を紹介しましたが、是非、本稿にてご紹介した事項が、貴社事業の何かの参考になれば幸いです。

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Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

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