前編・中編・後編にわたって、オムニチャネルコンサルタントである逸見さんへのインタビューをお届けしています。今回は後編をお届けします。

逸見さんはどのようにしてお客さんの像をイメージされるのでしょうか?

どの会社でも店頭で接客するようにはしています。ローソンでも研修でレジに入りました。イオンだけはレジ打ちに資格がいるので、ひたすらお客さんがどんな買い物をしているのかを観察していました。極論自分でも買えるので。

やはりそこから仮説を立てることも多いのでしょうか?

そうですね。基本的にはその仮説と、部門ごと/店舗ごとの売上や客数のデータを見ています。さらに深く見たいという時に商品と顧客のデータも見ていますね。“この商品を買っている人は年に何回かあの商品も買っている”といった具合ですね。

でも自社のお客さんがイメージ出来なければ、仮説が正しいかも分からないんです。この仮説が会社全体で使えるのか、それともこの店舗独特のものなのかがわからないので、キタムラでも色々な店舗でレジに入らせてもらいました。とにかくずっとお客さんを見ていましたね。時々お客さんに質問することもありました。すでにわかっていることでも、お客さんから言われると納得感が大きいんです。当然それを裏付ける定量的なデータも必要ですが、どっちが大事かと言われたらやはりお店のほうが大事だと思うんです。

実際の運用面に関しては、ECも現場も関係なくお互い協力しあいながら、一方で評価のルールを決めておくということが重要なのでしょうか?

そうですね。評価とオペレーションのルールが重要です。例えば商品マスタに関しては、同じ商品マスタを複数の部署が作成して別々に管理していることも多く見受けられます。どこか一つの部署がやれば作業を大幅に減らすことができます。楽するのは良い事だと思っていて、作業が減っていけばお客さんを見て仮説を考えるような本質的なことに時間を費やすことができます。そのためにはデータがきちんと揃っている環境を整備することが大事ではないでしょうか。

一方で、“楽することに対しての投資”という考えはなかなか許容されないのではないでしょうか?

これを“投資”ではなく、“コスト削減”と言ったら許容されないのは当たり前です。費用対効果の考え方を間違っていて、これってコストを下げるわけではないですよね。作業を減らすために毎月これだけの金額がかかりますが、それによって工数が削減され、作業から解放された人を、売り上げに貢献する部分に配分できるという考え方でないといけません。

つまり労働生産性を高めるということですよね。

そうです。そのための指標をちゃんと出してあげないとダメなんです。タワーレコードの前田さんをご存知ですか?あの方はもともと西武百貨店(現そごう・西武)の商品担当で、PwC、スクウェア・エニックスと転職して、今タワーレコードにいらっしゃいます。小売りにもITにも知見があり、コンサルのロジック思考をお持ちなのですが、前田さんの言葉で「顧客勘定」という言葉があります。今までは商品でカウンティングしていたものを、顧客でカウンティングしようという発想です。今まではカメラが何台売れた、クーラーが何台売れた、結果売り上げが1,000億円といったカウントが主流でした。

でも本当はそうではなくて、月にいくら、年にいくら買ってくれるお客さまが何人いて、その総和が売上なのです。今までは商品単価×客数でいうと、商品単価を集計して見ていたのですが、これからは客数の中身を見る必要があるのです。

今まではITが進んでいなかったので、お客さまを可視化しづらかったのですが、今は見える化されているので、お客さまがどれだけ継続的に買ってくれているかでカウントする必要があるのです。そのための手段がオムニチャネルなので、店舗を使うのかネットを使うのか、ジャパネットたかたさんであれば折り込みチラシなどもふまえてターゲットにあわせていく必要があるのです。

これまで逸見さんが見てきた中で、オムニチャネル観点で成功している国内企業はありますか?

これはあくまで私の意見ですが、オムニチャネル観点ではやはりヨドバシカメラさんだと思います。ヨドバシカメラさんは店舗数は少ないですが、相当な売り上げを上げています。その10%以上がEC化していると言われています。在庫管理も一元管理していて、店舗在庫と倉庫在庫をちゃんと管理しています。

店頭で「いま店頭在庫は切れてますが、倉庫にあるから午後には出荷できますよ」という接客を受けたことがある方もいると思いますが、これって全社の在庫がお店で見えているということなのです。今はそれをどの店に何がありますというように、お客さまに対しても見える化しています。他店の在庫が見えるだけで接客の仕方も変わりますし、お客さまからの見え方も変わってきます。単純にこれだけでもオムニチャネルなのです。また、24時間受取可能を実現しているのも、サプライチェーンをしっかり持っているかつ、駅立地だからこそです。お客さんの心理としても、24時間いつでも受け取れるのは安心ですし、与える印象はものすごく大きいですからね。

さらに配送に関しても、最近エクストリーム便を始めましたが、Amazonは全国津々浦々早く届けなければいけないのに対し、ヨドバシカメラは遠い地域は翌日以降と言い切っています。商圏に関しては、ターミナル駅から10〜15駅くらいの商圏を囲い込んでいるので、効率良く自社で早く配達できるわけです。

これも、しっかり在庫管理ができて店舗間の連携が出来ているからこそ、会社全体の在庫回転率が上がってキャッシュはよくなるし利益率は上がるわけです。正直すごいと思いますね。よくヨドバシ vs Amazonみたいに言われますが、現時点ではヨドバシが強いに決まっています。店舗にも専門知識を持った人間がいっぱいいるわけですからね。

相談できるとか、人との触れ合いというような体験価値が大事になってくるんですね。

おっしゃるとおりです。最近よく言っているのは「価格競争だけではない」ということです。もちろん価格競争の面もあるんですが、購入後に専門的なサポートがあるかどうかが重要なんです。特に、単価が上がれば上がるほどそういう考え方になるので。

また、可処分所得自体は減ってきているので、こだわって買うものとそうでないものが昔よりもはっきりしてきています。こだわって買うものに関しては、スマホで情報を見て、店頭でも情報を見て、さらにマス媒体でも情報を見て、最後に相談して買うことがほとんどです。今までマーケティングというと、AIDMAだとかAISUSだとかアテンションの話ばかりしていましたが、クロージングするポイントはどこなのかという話です。難しく考えなくても自分が買い物する時を考えたら分かりますよね。ここが一番大事なんです。

最近、カスタマージャーニーのようなものが出てきてどんどん難しくなっていますが、カスタマージャーニーなんて真剣に考えだしたらものすごい本数になってしまいます。だから、こんなお客さんにはこんな商品をというように、仮説を立てることができればカスタマージャーニーも有効なんです。でも、手あたり次第に着手するので、データの海に溺れてしまうんですよね。

それでは最後に、逸見さんが考える「未来のCMOに必要なもの」を一言でお願いします!

先ほども少しお話しましたが「財務諸表で語れること」と「お客さんの姿が語れること」ですね。また、後者はデータではなくて目で見て語れることが重要です。目で見て語り、データで説明できる、この2つが全てです。たくさんのペルソナデータだけなんてあまり意味ないですから。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 逸見 光次郎

    株式会社CaTラボ

    代表取締役

    オムニチャネルコンサルタント

    1970年東京生まれ。1994年三省堂書店入社。1999年ソフトバンク入社。イー・ショッピング・ブックス社(現 セブンネットショッピング社)立ち上げに参画。2006年アマゾンジャパン入社。ブックスマーチャンダイザー。2007年イオン入社。ネットスーパー事業の立ち上げと、イオングループのネット戦略構築を行う。2011年キタムラ入社。執行役員 EC事業部長。その後、独立。

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