前編ではOisixの成長を支えるデータマーケティングの秘訣をお話いただいた。
後編では、ブランドが持つべきオリジナルな体験価値の重要性や、新しくCMTに就任した西井氏が考えるCMO・CMT論についてお話いただく。

競合との差別化について教えてください。例えばAmazonなど、翌日届くサービスにどうやって勝つか。そのような部分について、Oisixで工夫していることはありますか?

お客様の体験価値をいかに上げていくかではないでしょうか。今Oisixでは「KitOisix(きっとおいしっくす)」という商品が好評です。今までの有機野菜の購入動機は、子供に安全な食べ物を食べさせたいというものが多かったんですが、最近では料理をしなかった方でも料理ができるような状況をKitOisixで作っていくことを目指しています。

そもそもOisixは「一般のご家庭での豊かな食生活の実現のために」というサービス理念を抱えており、そこから派生してできた一商品がKitOisixです。モノからコトへ、ではないですが、以前であれば「○○県のこんな生産者が作った大根」のような、顔の見える商品がスーパーなどで売られていました。ただ、お客さんは別に大根そのものを買いたいわけではない。美味しい夕食を作って家族に喜んでもらいたい、ただそれだけなんです。

Amazonは基本的にモノを売るプラットフォームなので、ユーザーは検索ボックスで欲しいものを検索して買っています。それ自体はとても重要です。一方で我々の場合、自前の配送網を持っているわけではないし、商品は注文された時にはまだ山奥の畑にあるんです(笑)。

ただ、それは逆に言えばメリットにもなっていて、届く早さでは勝負をしないとなった時に、出来る限り夕食まで鮮度が高い状態を作ったり、オススメメニューを商品と一緒に表示させたり、誰でも簡単にご飯を作れる状態を作ることで差別化を図ろうとしています。

よく社内ではガラケーとスマホの違いで例えています。ガラケーの時代って基本的に電話がメインだったと思うんですが、スマホになってからってほとんど電話はしなくなりましたよね。でもスマホになって、料金をガラケーの時の2倍くらい払ってるけど、その金額を上回る利便性だったりするから、いまやみんなスマホを買っています。じゃあOisixができることって何?となると、やっぱり「豊かな食生活」のようなところ、それを通じたお客様の満足度なんじゃないかなと思っています。

オンラインでのビジネスだからこそ、お客様の体験価値を大事にされているのですね。世の中の興行・イベントなどでも同様の動きが起きています。数千円払って会場に来て、長蛇の列に並んでグッズを買ったりしますが、同じものをネットで売ってもそこまで売れなかったりします。リアルな現場でお客さんが感じるワクワク感や臨場感は、逆にデジタル化が進めば進むほど大事になっていく気がしますね。

本当に体験価値が重要ですね。そもそも体験って何?っていう話なんですが、例えばさっきのKitOisixも最初から野菜がカットされていて、20分で調理が完成するという便利さが売りの商品です。

もちろん、じゃあお惣菜でいいじゃんっていう方もいると思うんですが、世の中のお母さんって自分で作ってあげることが大事だったり、子供がお母さんのご飯をおいしいと言ってくれることが大事だったりします。そういう体験があると、料理を作るのは大変だけど、子供のため作ってあげたいと思うはずなんです。特にデジタルをやっていると感じるんですが、体験というかお客さんのニーズが年々変わってきているんですよね。

私は旅行が大好きで、15年前と2年前の2回、世界一周をしていますが、すごく変化していて面白いなって思う部分があります。今の特徴としては、Instagramが流行っているので、Instagramでいい写真を投稿するために旅行している方が多いんですよね。Instagramって2年前にはそんなにメジャーではなかったし、15年前にはもちろん存在しなかった。

でも今はInstagram映えしそうな場所がとても人気なんです。企業側としては、そういうトレンドや変化をキャッチアップしてマーケティングをしていかないと、5年前にこういう手法で売れたから今も同じ手法で売れるかというとほとんどがそうではない。流行っているメディアが変わったとかそういう問題ではなく、ニーズ自体が変わっているんです。

なので、例えば商品のパッケージ一つとっても、思わず写真を撮りたくなるようなパッケージの商品を発売したらお客さんが勝手に広めてくれるかもしれない。昔は通販だからといって値段をおさえるために簡素なパッケージにして、ただ届いて使う、という形で完結していたかもしれませんが、今はそうではないんです。

そういった形で、オンライン・オフラインの接点を問わず消費者のニーズ、それを取り巻く環境が激しく変化していく中で、マーケティングのサイクル、PDCAをどれだけ早く回していけるかが重要だと思いますが、Oisix内で意識していることとかはありますか?

もちろんPDCAを早く回すに越したことはないですが、闇雲にテストをしてもうまくいきません。先程もお話しした仮説検証が重要です。中途半端な仮説を立ててテストをして、結局何も生まれないという企業をたくさん見てきました。

極端ですが、例えば40代の女性に広告配信をする際に、若い人向けのコピーと、「アンチエイジング」のような高年齢層向けのコピーで出し分けても意味が無い。仮説の段階で気づきますし、そこで後者が勝ちましたとなっても何も打ち手は出てこない。データだけを見るのではなくて、その前後での振り返りをしながら次の打ち手につなげていく事がすごく重要ですね。

将来的にOisixとしてはオンラインとオフライン両軸で、どのような施策を考えているのでしょうか。

認知度はまだまだではありますが、Oisixはブランドが立っていて、かつ幸いなことに良いイメージもあります。今まではあまりオフラインでの広告などは積極的には活用してこなかったのですが、オンラインのみでもそれなりにブランドというものは作れるんだな、という実感はあります。

私自身はあまりオンライン、オフラインをわけて考える必要はないと考えていますが、店舗などは既存プレイヤーもたくさんいますし、Oisixが大きな展開をするとすれば、既存ビジネスにテクノロジーをかけあわせた面白い事ができるようになったときかな、と思っています。大事なのは、オンラインやオフラインというのはマーケターがの言葉でしかなくて、お客様から見ればOisixはOisixなのでオンライン・オフラインは関係ないですからね。

やはりテクノロジーをいかに掛け合わせられるかが重要なんですね。それでは、西井さんのCMO、CMT論をお聞かせいただけますでしょうか。

CMOに関しては、自社におけるマーケティングが何かを定義をして、KPIを作るポジションだと私は思います。CMOと聞くと、上流のマーケティング戦略を作ってそれを下に落としてく人というイメージが強いと思うんですが、僕はそれではワークしないし、古いと思っています。お客さんに近い現場から意見を吸い取って、それをサービス化する際に、縦割りにするのではなく、ちゃんと横でつなぐことが求められます。そういった、「部門をまたいでマーケティングを考えられる組織を作れる人」がCMOだと思うんです。

CMTに関しては、正直やってみないとわからない部分が多いですね、とはいえこれからはテクノロジーに強いマーケターの市場価値が高まってくると思います。そうでないとイノベーションは起きない気がしますね。

西井さんのイメージしているCMOとCMTの役割分担でいうと、CMOはボトムアップで会社全体のマーケティングを調整する役割だと思うんですが、その先のHowをどうやって実現するかをCMTが設計するイメージでしょうか。

そんなイメージですね。最近CTOというポジションも増えてきていますが、マーケティング視点で考えるとテクノロジーのみで本当にいいのか?と思うんです。CMOはそのままでいいと思うんですが、CTOのような人がマーケティングの知見を身につけると、会社として強くなってくるのかなと思います。

マーケティングを語れるCTO、テクノロジーを語れるCMO、幅広いスキルが求められる時代になっていきそうですね。それでは最後に西井さんが考える「未来の日本のCMOに必要なもの」を教えてください!

「考える」ことだと思います。最近、仕事の中で「考える」ことが減ってきているように感じます。Googleが生まれ、なにかあればすぐに検索をするのが当たり前の世の中になっていて、例えば広告コピーを作るのも、検索をして他社に近いものを作るような話もよく聞きます。

インターネットが生まれて、マーケティング活動をするうえですぐに真似しやすい環境になりましたが、真似をしてもオリジナルを超えることはありえないですし、本当に自社の商品を考えるとそれでは駄目だと思うんです。私自身も成果が出ない時は考える時間を取れていない時がほとんどです。そんな状況でも「考える」ことを辞めずに「考える」力を磨いていかないと、これからの時代マーケターとして生き残っていけないのではないでしょうか。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 西井 敏恭

    オイシックス・ラ・大地

    執行役員

    CMT

    シンクロ

    代表取締役社長

    株式会社ドクターシーラボにてデジタルマーケティングの責任者を務め、独立。国内大手からスタートアップ企業のマーケティングアドバイザーをしながら、オイシックス株式会社執行役員CMTとしてEC戦略を担当している。また、フロムスクラッチ社のCIOも務める。著書に『デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法』がある。

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