前編では、EC化率40%を誇るナノ・ユニバースがデジタルマーケティングを推進してきたなかでのポイントを具体的な事例を交えてお話いただいた。
後編では、店舗とネットの連動がもたらすナノ・ユニバースの今後の展望についてお話を伺った。

先日AIの導入も発表されていたと思いますが、EC領域において今後は何に注力されていくんですか?

AIに関しては、根幹部分に導入するというのはまだですが、今は検索部分に導入しています。スマホでの検索のサジェスト部分ですね。ハンバーガーメニューが出てきたときは本当に発明だなと思ったんですが、ナノ・ユニバースのメインターゲットである30代男性を考えると、電車内で商品をチェックすることが圧倒的に多いので、一回一回の検索にとても手間がかかってしまいます。PCと比べてもサイトの回遊性が低い等の課題もあったので、検索後のサジェストの順番部分にAIを導入しています。まだそこまで精度は高くないんですが、時間が経つにつれて精度が上がってくれば、メニューを開かなくても、感覚的かつ気軽に自分の欲しいものを見つけることができるようになると思います。テクノロジー領域に関しては今後も様々な先進的な取り組みの発表を予定しています。

AIを使うとなると、データの量を集めることが重要になると思いますが、何か工夫はされているのですか?

ブランドの規模としてもモールさんにデータ量では勝てないので、今一番重要視しているのが、来店データです。アプリの話にもつながるんですが、全店舗にビーコンを導入してから2年半、ずっと店舗で来店データを取り続けています。店舗での購入データはどの企業も取得していますが、来店データの取得はまだ多くないように感じます。
店舗に来店して実際に商品を購入する人って相当割合は低いんですが、その方々って非常に大事なお客様だと思うんです。なので、来店データを活用してどう次の一手を打つかの部分は試行錯誤しているところです。

少し話が脱線しますが、最近Google Analyticsと顧客ID・来店データを完全に連携することができました。
まだテスト中なんですが、ECのこのページを見た人の何人が来店・購入したかというのが計測できるんですね。ナノ・ユニバースはデジタル系のコンテンツをたくさん持っているので、PVやカートに入れたかという従来の評価だけでなく、サイトを見た人が店舗にどれだけ来たのか、さらにそこから何人が購入したかのがわかるようになります。先程お話した次のアプリのテーマである、“もう一回お店に来てもらうかどうか”は、結局この数字を測ってKPI化する必要があるので、この指標が取れるようになったことは非常に大きいです。

来店データは今後必ず必要なデータになると思いますし、来店したけど買っていない人に対するアプローチもできるようになります。Webでは当たり前になっている精度の高いリターゲティングが店舗でもできるイメージですね。来店データを正確に読み取るために、チェックインに対してインセンティブをもうけて、スタンプでポイントが付いていくと仕組みにしています。

インセンティブをもうけるとはいえ、チェックインはハードルが高いと思いますがどれくらいの方がチェックインするのでしょう?

これも店舗との連携次第で大きく変わります。キャンペーンを組んだり、マニュアルでスタッフの教育をしっかりしていると、今ではお客様の方がBluetoothをオンにしてくれるようになったので、店舗によってはアプリを持っている人のうち、チェックイン率が約5割に達しています。ビーコンが最適な手段かはさておき、やり方次第では意味のあるものにできると思います。

5割はとても高い数字ですね!データのような定量的な部分はもちろん注力されていると思いますが、クリエイティブなど定性的な部分も注力されているんですか?

ナノ・ユニバースは結構変わった社内体制を取っていて、クリエイティブチームの人数がとても多く、データのチームが少ないんですよ。今までの話だとデータのチームが多いと思われたかもしれないですが、基本的にはクリエイティブに重きをおいています。セレクトショップの存在意義ってかなりブランディングによりますからね。今後はどの企業も自社ECに注力していく中で、必ず飽和状態が起こると思うんです。同じキーワードを取り合うようなことも既に起こっていて、今後さらに過熱していくことを考えると、ブランド価値を高められるかどうかが、生死を分けると考えています。なので、動画コンテンツなどを通してブランドのイメージをもっとお客様に理解・共感してもらうという部分は常にコストをかけています。

先日も面白い動画の取り組みをしまして、動画の中にボタンを埋め込むことができて、ボタンを押すとリンク先が出てくるようになっています。この動画の面白い所は、撮った動画に後付けで機能を加えたのではなく、最初からボタンありきの設計で制作を進めていったところです。このようなクリエイティブも全て内製化して制作しています。

しかし、今はまだこの動画の売上貢献はKPIにしていません。正直そこまで便利なものではないですし、ここから購入には直結しないだろうなとは思いますが、新しいことに挑戦して新しい購入体験をお客様に提案することは絶対に欠かしてはいけないので、挑戦領域としてやっていることは結構多いですね。動画チームがドローンで撮影したり。ドローンで撮ったからといって売上がいくら上がるかなんてわからないですけど(笑)。ただ、その感性を磨くようなことは常にやっています。

先進的な取り組みをするがゆえに失敗もしていて、先程のデータも見ながらPDCAを回しているんですね。

そうですね。例えば大きな失敗で言うと、去年アプリ内でのメディアコマースに挑戦したんですが、やり切ることができませんでした。メディアコマースはみなさん考えていることだと思いますが、コマース部分の購入体験のベースがしっかりしていないと、いかにコンテンツが優れていても購入までは至らず、逆にストレスになってしまいます。Amazonのようなストレスのかからない現代的な購入体験を同時進行で回さないとなかなかうまくはいかないですね。

現在、ナノ・ユニバースとして何かマーケティングコンセプトはあるのでしょうか。

なかなか言語化するのが難しいんですが、「O2S(Online to Store)」とでも呼ぶのでしょうか。ここに来てやっと本当の意味での店舗とwebの相互送客ができるようになりました。オムニチャネルも捉えようだと思うんですが、結局ECの売り上げを伸ばすことはできるんですが、店舗の売上が食われてしまうという現実が見えてきました。ブランドのファンになってくれるお客様は店舗とネット両方を好きになってくれるという答えはもう出ています。要は、ただECで吸い上げる仕組みのオムニチャネルでは限界があるということです。

リアルとネット両方で収益を最大化させることは多くの企業が取り組んでいますね。横浜DeNAベイスターズさんに取材した際も「O2O2O (Offline to Online to Offline) 」を重要視しているとお話されていました。

ベイスターズさんは本当にうまいですよね。僕も昨日ちょうどハマスタに行ってきたんですけど、ここ数年の盛り上がり方は尋常じゃないです。球場の外でも楽しめますしね。アパレルに置き換えると、店舗での体験が重要だということになるんですが、アパレルの場合、究極は試着だと思うんですよね。これは今後ECがどれだけ進化しても絶対になくならない体験価値だと思います。あとはやっぱり試着しないとダメだとお客様に思ってもらえるような店舗にしていくのはマーケティング次第だと思います。よりブランディング化されたECを軸に、O2S(Online to Store)を実現していきます。

組織や経営の視点でも教えてください。データを使ったマーケティングをしていく上で、体制面で重要なことは何でしょうか。例えばKPIの設定方法など工夫されたことは多かったのでしょうか。

正直我々もまだできていない部分ばかりですが、先ほどお話したO2Sの数値化が鍵になると思います。ナノ・ユニバースもブランディングへの投資として動画制作など色々やっていますが、ECでの売り上げだけ追ってしまうと、どこかでそれって必要なの?となってしまいます。いかに店舗に貢献しているかを数値化するのは、店舗を持っている会社である以上、今後全マーケターの必須項目になってくるのではないでしょうか。

僕もこの数値がKPI化されたら、今後はもうその指標だけで判断するとデザイナーに言おうと思っています。もうECでの売り上げは大丈夫ですと。ECで売上を上げる効率的な施策って、特集ページとかではなく、効率的にMAを回すだとかそういう部分だと思うんです。クリエイティブを作るときに、何人店舗に送客できたかというのをデザイナーの唯一のKPIにしたら何を作るかも変わってくると思うんですよね。商品が置いてある店舗のリンクを貼ったりだとか、そういった細かいけどできていないことがたくさんあると思うので、まさに先程掲げたコンセプトを達成するためには、EC上でそういうコンテンツが増えないといけないと思います。

実際に推進していくとなると、色々な部署の人を取りまとめていく必要があると思いますが、何がポイントとなるのでしょうか?

色々な理想論を言いましたが、やはり常に売り上げを前提にするということだと思います。ECの売上がそこそこだと、発言に信憑性もなくなってきますので。

たしかに、社内で意見が通りやすい環境を作ることが重要ですね。

僕も社内では比較的意見が通りやすいという前提もありますが、正直社長次第なのではないでしょうか。ナノ・ユニバースの場合、社長の濱田自身が先進的な取り組みに意欲的なので、こちらからのプレゼンを真剣に検討してくれますし、ITに関する具体的な方針も示してくれます。経営者がそういう環境を用意してくれることが重要です。

結局、経営者の判断に委ねられますよね。とはいえ、他の企業のマーケターはどうすればいいの?となってしまうので、例えば現場視点からみてこれからの時代に経営者が持っておくべき考え方は何かありますか?

いかに先行投資に踏み切れるかではないでしょうか。当たり前ですが、この視点に関してだけシビアな経営者がとても多いと思います。ECはリアル店舗に比べ利益率が高いというメリットがありますが、それが故に、高利益率をキープするために投資に臆病になってしまう傾向があるかと思います。ECこそ早いサイクルでの改修が求められており、投資が必要だ、という考え方が必要だと思います。

投資をしていかない限り、成長は見込めないということですね。店舗で当たり前のようにやってきたことをいかにデジタルでも同じように考えられるかが重要な気がします。では最後に、越智さんにとってCMOに必要なものを一言でお願いします!

「自社の武器を理解して、オリジナリティを生み出すマーケティングをすること」だと思います。
ナノ・ユニバースの場合、良質な店舗とECがあることが武器なので、店舗を最大限フル活用することがオリジナリティになっています。新しいテクノロジーが次々と出てくる時代で、いつも何が正解か不正解なのか迷うんですが、テクノロジーの力に一任するのではなくて、外部の会社さんと一緒にナノ・ユニバースオリジナルなのものにするために議論を重ねて、共同研究していくことは大事にしています。自分たちの武器を理解しないままにテクノロジーに依存するなということですね。

あとは、個人的な意見としてはあまり会社のことを考えすぎないことが大事だと思います(笑)。そのくらい振り切らないと結局チャレンジってできないと思うんです。ナノ・ユニバースとしても個人としても、これからどんどん先行的な新しい取り組みをしていきたいですね。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 越智 将平

    ナノ・ユニバース

    経営企画本部 WEB戦略部 部長

    2002年 株式会社ナノ・ユニバース入社。店舗での販売業務を経て、2005年よりECの担当となる。
    2010年よりWEB事業の責任者として、EC事業の拡大、会員制度の構築、デジタルマーケティングを中心に取り組んできた。現在はオムニチャネル戦略を推進中。

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