前編では、SHIBUYA109が流行を生み出し続けている秘訣を、若者のインサイトと施設運営の観点でお話頂いた。
後編では、デジタルネイティブ世代に合わせたSHIBUYA109のデジタル施策と組織づくりについて深掘っていく。

デジタルの活用において、今取り組まれていることがあれば教えてください。

今取り組んでいることは、大きく3つあります。

まず、今一番注力しているのは組織体制の整備です。私の管轄であるオムニチャネル事業部では、フロアの管理とECを同じ担当者が行うようにしています。店頭やECに関係なく同じ視点を持ってお客様と接することができ、店舗とECを連動させた施策を推進することができるようになるからです。

通常アパレル企業では、店舗とECの組織が分かれているケースが多く、EC担当が「こんなことをやりたい!」と言っても、店舗担当が「そんなのやる意味ない!」と言って、施策がなかなか進まないケースが多いです。以前の我々もそうでした。

しかし、デジタル化が進み、よりリアルとデジタルをシームレスに繋ぐためには、組織体制から変えていくべきという考えからリアルとデジタルを融合させた組織体制に変更しました。これにより、店舗とECを連動させたデジタル施策を素早く推進できるようになってきています。

二つ目はサイトの統合です。大阪や鹿児島にもSHIBUYA109があるのですが、その施設ごとにサイトがあり、またECも別にあったためそれぞれで管理するだけでも一苦労でした。また複数サイトがあるので、アクセスが分散してしまい、例えば大型のタイアップ企画を実施してもアクセスが稼げず、ECサイトでの購入にも繋がらないという課題がありました。

そこで、サイトを統合し、お客様のニーズに合わせて導線設計をすることで、商品を買いたい人はECに誘導し、イベントの情報を得たい人にはその情報が得られるページに誘導できるような体制に整えました。これが2014年ですね。

今ではSHIBUYA109のサイトに行くと、イベント情報や各ブランドの商品、更にオウンドメディアも一つのサイトで見ることができます。アクセスしてくださったお客さまがその場で得たい情報をすぐに得られるようなサイト設計になっています。

三つ目はSNSです。今の若者は物心がついたころからSNSがあるので、わざわざ「SNSを使おう!」という感覚がありません。あるのが当たり前なので、プロモーションの一環としてSNSを使うという感覚ではなく、SNSをどのように運用していくかが本当に重要です。

そのため、マーケティング部署の中にSNS専属のチームを作り、プロモーションとしてではなく、“お客さまとのコミュニケーションツール”としてSNSのことだけを考えるチームを置いています。

結果的にはプロモーションにも繋がりますが、プロモーションを目的にSNSを活用してしまうと、プッシュ型の一方的な情報発信になってしまいます。「○○キャンペーン実施中!」といった情報を発信しても誰も見向きもしないですが、コミュニケーションを主眼に置いてSNSで情報発信をすることで、若者に対して有効に情報提供ができ、更にSHIBUYA109のファンを増やすことにも繋がります。

SNSの運用方法はいくつかパターンがあると思いますが、なかでもコミュニケーション型がいいと思ったのは、何故なのでしょうか?

当たり前ですが、“若い世代”と“SNS”は、もはや切っても切り離せないくらい日常に溶け込んでいます。ただ、その日常の中にプロモーションが入りすぎてはダメなんです。今の若者って、広告やPRだとわかった時点で、もうその情報は見なくなりますから、広告やPR的なアプローチではなく、“コミュニケーション”をするのがベストだという考えに至りました。

例えば、専属チームはフォロワーのコメントに即返信するようなことをやり続けたりしています。徹底的にやらなければ「コミュニケーション」にはならないですからね。もちろん大変ですが、効果は非常に大きいです。

先日、SHIBUYA109のロゴを変更した際にも、Twitterでは大量にいいね!やリツイートがされましたし、それをきっかけにメディアの方々に情報が回り、取材されたというようなことも起きています。それくらいSNSはパワーを持っていますね。

アラウンド20をターゲットにしている我々にとっては、TwitterをはじめとするSNSでのコミュニケーションは非常に重要で、ここを外してしまうと、ターゲットとなるお客様に情報が届かなくなります。これはこれからも変わらないと思いますし、より重要度は増していくと思っています。

SNSという観点では、ショップスタッフのSNS発信も同様の狙いがあるのでしょうか?

そうですね、ショップスタッフの影響力もうまく活用できるように意識して取り組んでいます。SHIBUYA109というと、ショップスタッフのイメージが強い方も多いと思います。

実際スタッフの中でも7,8万フォロワーを抱える方もいらっしゃり、それだけでかなりの情報発信・拡散に繋がります。企業からのメッセージより、スタッフ個人からのメッセージの方がお客さまの共感を得られやすく情報を伝えやすいので、いかに彼女たちに情報発信をしてもらうかが重要です。

そのため、スタッフのモチベーションを高め、より情報発信をしたくなるような仕組みづくりを意識しています。このようなSNSの活用は、デジタル施策ではありますが、スタッフとのコミュニケーションという観点では、リアルでの施策とも言えます。

なので、デジタル施策、リアル施策と分断して考えるのではなく、デジタルもリアルも気にすることなく、シームレスに繋げられる方法を模索しています。ショップスタッフや店舗といったリアルを起点にデジタルを使って発信し、あらゆるところで必要な情報を得られる仕組みが大事だと思っていますね。

まさに、デジタルと店舗を融合させたオムニチャネル施策ですね!因みにいわゆるオムニチャネル施策とSHIBUYA109でのオムニチャネル施策ではどのような違いがあるのでしょうか?

そこは実は難しいところでもありまして…、若者におけるオムニチャネルは一般的に言われているオムニチャネルとはちょっと違うんですよね。若者はSNSをよく利用しますし、店舗とデジタルを行き来するのが当たり前で、そこに垣根がありません。購入する場所なんて気にしませんし、どこで情報を得たかも気にしません。一般的には、効率的に買い物ができるECでの購買が増えて、店舗に行く人が減ると思われていますが、若者の場合は例外で店舗にもよく行きます。

ひとえにオムニチャネルといっても、このような若者の特性がありますので、一般的なオムニチャネルの概念に縛られることなく、若者の特性を踏まえてオムニチャネル施策に取り組むようにしています。もちろんオムニチャネルで成功している企業は参考にしていますし、いろいろな企業から勉強させていただきながら、それをSHIBUYA109ならどうやって活用できるのか?と日々考えています。

今まさに、店舗とデジタルを融合させた、オンラインとオフラインをシームレスに繋ぐような体制が構築されていると思いますが、このような施策に踏み切ったきっかけはあったのでしょうか?

やはり、加速度的にデジタル化が進んでいることが一番の要因ですね。我々もデジタルに注力していかなければ、メインターゲットである若者層を惹きつけられません。ただ、やらなければいけないと分かっていても、これまでは店舗の運営がメインだったので、自分の仕事にSNSやECをどうやって取り入れていけば良いのかがわからない状態でした。

これを先ほどお話ししたような組織体制に変更することで、うまくデジタルを取り込むことができるようになりました。今ではデジタルに対してアレルギーを持つ社員はほとんどいなくなり、全員がデジタルに注力していこう、SNSをもっと注力しよう、という感じになっています。

今後はどのような分野に注力されたいとお考えですか?

リアルのデジタル化にはもっと注力していきたいと思っています。今の時代、色々な技術が発展していて、いわゆる“オフラインのデータ化”をどの企業も進めようとしていますが、これをSHIBUYA109でも取り組んでいこうと思っています。

モノ消費ではなく、コト消費が重視されつつある現代において、お客さまの体験価値を高めることが重要になっていますが、そのためには、まず集客してより長く滞在してもらう必要があります。いかに多くの人を集客するか、そして滞在時間を長くするかを考えるには、顧客のデータが必要になります。

現状、SHIBUYA109ではリアルの会員組織はなく、ポイント制度やクレジットカードもありません。今から会員制やポイント制を導入するには時間を要しますので、ビーコンの導入や既存アプリのダウンロードの促進により、そこで取得したデータを中心に顧客の情報をデータ化していきたいと思っています。

ありがとうございます!それでは最後に、澤邊さんが考える“未来のCMOに必要なもの”を一言でお願いします!

弊社の場合、CMOのような役職がないので難しいですが、「経営視点でマーケティングの仕組みを構築し、戦略や施策に生かすこと」ではないでしょうか。特に我々の場合は、ターゲットが若者層と明確なので、マーケティングがコアにないと事業が成り立ちません。

そういう意味では、マーケティングを経営の中心に置くことを全員が理解していますし、全ての事業部においてマーケティングが必要であることを全員が理解しています。もちろん、全員が実行まで出来ているかは難しいところで、まだまだ改善していく必要がありますが。

経営視点でマーケティングの全体的な戦略を作って仕組み化することはもちろん必要ですが、それだけではなく、マーケティングの重要性を理解し、マーケティングを全ての事業のコアに置いて、事業を組み立てられることのほうが大事だと思います。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 澤邊 亮

    SHIBUYA109エンタテイメント

    オムニチャネル事業部 MDプランニング部長

    SHIBUYA109総支配人

    MAGNET by SHIBUYA109総支配人

    SCの現場運営、新規SCの開発、本社部門に携わった後、2013年よりSHIBUYA109の公式通販の運営、109ニュースシブヤ編集部の立ち上げ、サイトリニューアルなどを実施。
    施設運営、EC運営、オムニチャネルの推進とSNSやオウンドメディア、マーケティング全般を担い、2019年7月1日より現職。

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