11月20日、21日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京において、“マーケティングの未来を見に行く2日間”をテーマに、世界No1サービスをリードするマーケターや、近未来のデファクトスタンダードの創造を目指すサービスクリエイター、更には人気芸能人まで、約70名に及ぶ各領域のトップランナーが登壇した『MiXER ~The Marketing Conference~』。
MiXER Day1の最後のセッションを飾ったのは、株式会社ミクシィ執行役員 根本悠子氏とモデレーターの柴田陽子事務所CSO 長瀬次英氏だ。
2013年のリリース以降、爆発的な成長を実現し、群雄割拠のアプリゲーム市場において異例とも言えるロングヒットを続ける『モンスターストライク』。
この大ヒットにおけるマーケティングの役割に迫る。

『 モンスターストライク』とは

2013年10月にローンチされ、現在では世界累計5,200万人のユーザーに支持される『モンスターストライク』。日本での認知度も非常に高い本アプリだが、まずはサービスについて紹介がされた。

モンスターストライクは「4人で遊べる」という、SNSの『mixi』を運営する同社だからこそのコンセプトを持ったゲームだ。一人で隙間時間に遊ぶ、というそれまでのモバイルゲームの在り方を「みんなで楽しむ」というものに変えた点が画期的だった。

2015年には世界No.1の収益を上げるゲームアプリ(※1)となり、2018年、2019年も国内No.1の収益(※2)を誇るサービスとしてロングヒットしている。
※1:参照)App Annie2015年9月
※2:参照)参照:ファミ通モバイルゲーム白書2019年

本セッションでは、モンストのマーケティングを下記3つの時期に分けてそれぞれお話頂いた。

 『2015年ごろの急拡大期』
 『急成長のあとに訪れた安定期』
 『6周年を迎えた現在』

急拡大期におけるマーケティング

『モンスト』のマーケティングKPI

市場でも類を見ないスピードと規模で成長したモンスト。セッションではまず、KPIの確認から始まった。

モンスターストライクは「インストール数」「MAU」「DAU」「プレイUU」「マルチプレイUU」「招待率」といったKPIを追っている。その中でも特に、「招待率」をサービスグロースのセンターピンと捉え、招待をしたユーザーはゲーム内でも有利になるよう設計されている。

爆発的成長を支えたバイラルマーケティング

ローンチ当時はソーシャル・ネットワーキングサービスの『mixi』を主力サービスとして展開していた同社。新規サービスである『モンスト』を一気に拡大するのであれば、mixiのユーザープールからも利用者を増加させることができたはずだ。しかし、あえてmixiという名前は隠し、かつ広告も大きくは展開せず、「静かに」施策展開を進めた。

根本私たちマーケティングサイドの狙いは、『モンスト』がゲームそれ自体で好評となり、単体で成長していくことでした。そして、成長のためには、コアとなるヘビーユーザーを増やしたいと考えていました。このやり方は、mixiでも同じでした。コアとなるファンを生み出し、そして招待制をとって招待された人だけがユーザーになることができる。これにより、『招待された』という特別感をもってサービスを使ってくれます。この仕組みは非常に当たりました。この初期フェーズに登録してくれた方や招待してもらった方は継続率も高いです。

ファンからの口コミを広げるバイラルマーケティングによって成長していくモンストも、2014年にはテレビCMを実施。一気にユーザー数を拡大させていった。

安定期においてマーケティングが果たしたブレークスルーとは

重要視されていたKPI

3周年を迎えたモンスト。この3年の間に世界No.1の収益を上げるゲームアプリとなるなど市場を席捲した後に、“安定期”を迎えた本アプリは、インストール数の伸び率も、継続率も逓減しつつあった。

根本市場を詳細にリサーチすると、まだ『モンストをやっていない』層が存在しました。認知度自体は70%に達していて『みんなでやるゲーム』として知られてはいても、『自分には関係ない』と考えている潜在層がまだまだ多かったですね。

そこで実施したのが、モンストを更なる成長とロングヒットに導くことになる「3周年キャンペーン」だった。

3周年「モンストやるなよ!」キャンペーン

“知ってるけど自分には関係ない” 層を動かすために実施したのが『モンスト、絶対やるなよ!』という有名なフレーズのキャンペーンだった。

根本本当はとにかくゲームをやってほしい。ですが、『やってください』というコミュニケーションはこれまでやりつくしていました。それは私たちだけじゃなく、他のゲーム会社さんもやっていたことです。したがって、前例のないキャンペーンが必要だと感じていました。

社内外から反対意見が出た企画だったが、『前例のないキャンペーンを行う』という意識でテレビ、SNS、デジタルマーケなど全方位的に推し進めた結果、あらゆるKPIが全て爆発的に上昇し、大成功を収めることになった。

「十二支再競争」キャンペーン

「モンストやるなよ!」キャンペーンだけでは掘り起こせない『潜在層』はまだいた。その層を動かすために企画したのが、翌年6月に実施した「リアル版 超・獣神祭 十二支再競争」キャンペーンだった。

根本単にゲームを宣伝するのではなく、日本中を盛り上げて、わくわくさせる企画をやりたいと思っていました。それが結果的にモンストにとっての潜在層の掘り起こしにつながると考えました。やはりここでも、これまで他の会社がやっていたような企画や予想がつくものでは絶対に不十分だと考えました。そこで、キャンペーンを盛り上げる要素として必要と考えたのが、“投票”や“競争”の要素です。

十二支再競争キャンペーンは、日本の干支の順番を決めた12支の競争の昔話をリアルに再現し、どの動物が優勝するか、を予想してもらう企画で、実際に12支(+猫)の動物たちがレースを行う様子をYoutubeでオンライン生中継する、というものだった。

実現可能性含め、社内はもとより広告代理店含めあらゆる人が反対する中で、『日本中を盛り上げる』というために企画は実施された。

根本本キャンペーンによってTVCMの実施と同じ位のリーチができました。特にソーシャルの反応は注視していましたね。ネガティブでもポジティブでもエゴサーチをするなど、いわゆるソーシャルリスニングを頻繁に行いました。

色んな人に反対された企画でしたが、結果的にはバイラルでの盛り上がりを生み、頭打ちになりかけていたユーザー数を押し上げてくれました。とても工数がかかるキャンペーンだったので非効率と言われても仕方ないかもしれないですが、当時の私たちの状況では、このキャンペーンをやるべきでしたし、やってよかったと思います。ADFESTというアジアの広告祭でも賞を授賞できました。審査員に『クレイジー』と言われましたが。(笑)

6周年キャンペーン

今年10月に6周年を迎えた『モンスト』。周年キャンペーンとして打ち出したのが「モンストプリズン」という世界観を打ち出した新企画だ。この企画によって解決したいと考えた課題は、「人の飽き、マンネリ」だ。

このキャンペーンで特徴的だったのは、囚人と所長との対立構造だ。これはユーザーと運営(モンスト)を模している。

根本6周年を迎えたモンストですが、ここまで長く続けているとユーザーには飽きやマンネリが生まれてきますし、不満もでてきます。不満をすべて解消することはできませんが、ユーザーが抱えているかもしれない不満を代弁するCMによって、『モンストが変わるのかも?』という期待を煽れるのでは?と考えました。

10月の周年に合わせて、7~9月にティザー的な企画を実施したほか、ゲーム内でもユーザーにメリットが生まれるキャンペーンを多数実行することで大きな盛り上がりを作ることに成功した。

根本氏の考えるマーケティングの極意

ユーザーサプライズファースト

根本モンストプリズンもそうですが、ミクシィでは、『ユーザーサプライズファースト』というステートメント(理念)があります。あらゆる企画・キャンペーンの決定判断には、顧客体験としてどうなのか?を重視します。同じことの繰り返しは顧客体験としては良くないものと考えています。
もちろんソーシャルリスニングなども行ってユーザーの声を直接聞き、そこでユーザーのニーズも把握します。しかし、あえて裏切るサプライズを設計することは、誰も予想しない大きな成長を実現するために必要なことだと考えています。

たくさん打席に立つこと

根本企画の成功確率を高めるには、たくさん打席に立つことも大切です。今日は成功した事例を持ってきていますが、それ以上にたくさん失敗もしています。たくさん打席に立つにはスピードが必要です。なのでPDCAだと遅すぎると思って、OODAループ(Observe、Orient、Decide、Actの略)のような感覚で判断と実行を早くしています。

もちろん、プロモーションだけ盛り上がってプロダクトがおろそかになってもいけないので、そこはバランスを見ながら進める必要もあります。ただ、『やらないで落ちるより、やって落ちた方がいい』、こういった考え方も大切かなと考えています。

モバイルゲーム史上最大規模のヒット作『モンスターストライク』。この大成功を支えたのは、業界の常識や前例を越える企画の数々であり、その企画をうみだした「ユーザーサプライズファースト」という同社のDNAだった。

飛躍的な成長をもたらす企画を作りたいと願うあらゆるマーケターにとって刺激的なセッションが幕を閉じ、MiXER Day1が終了した。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 根本 悠子

    ミクシィ

    執行役員

    クリエイティブエージェンシーAE、オンラインゲーム会社等を経て、2007年 ミクシィに中途入社 SNS mixiプロモーション / 2013年 出産のため産休・育休 / 2014年 『モンスターストライク』のプロモーション / 2016年 モンスト事業本部 マーケティング部部長 プロダクトのPR、リサーチ等を統括 / 2018年 マーケティング領域 執行役員 マーケティング本部 本部長 / 2019年 マーケティング・デジタルエンターテインメント領域 執行役員 ゲーム以外の周辺事業も含めた“モンストブランド”全体のマネジメントを統括担当

  • moderator

    長瀬 次英

    柴田陽子事務所

    CSO

    BORDERS at BALCONY

    CEO

    PENCIL&PAPER

    CEO

    Visionary Solutions

    CEO

    1976年京都生まれ、中央大学卒。インスタグラム日本事業責任者、日本ロレアルのCDO、株式会社LDH JAPANのCDOを経て、この10月に自身の会社PENCIL&PAPER㈱とVisionary Solutions㈱ を立ち上げた。同時にブランディングビジネスで有名な柴田陽子事務所にてCSO(最高戦略責任者)を担い、またBORDERS at BALCONYというアパレルブランドのCEO等を担い真のパラレルキャリアを実践している。登壇しているセミナー等は数多く、史上初2年連続アド・テック東京(2017&18)で#1スピーカーを受賞。他にも2018年1月に「Japan CDO of The Year 2017」を受賞。Forbes・Japan(2017年12月号)にて「カリスマCxO」の一人として特集される。常に、新しいかつ時代にあったビジネスモデルの構築とサラリーマンの無限の可能性を模索している。

About MiXER

2019年 11月20日〜21日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京において、“マーケティングの未来を見に行く2日間”をテーマに、世界No1サービスをリードするマーケターや、近未来のデファクトスタンダードの創造を目指すサービスクリエイター、更には人気芸能人まで、約70名に及ぶ各領域のトップランナーが登壇した『MiXER - THE MARKETING CONFERENCE』。初開催となった『MiXER』は、約3万のセッション申込数、約5千人の来場者が参加し、大変な盛り上がりの中、終了した。

日時:2019年 11月 20日(水)~ 21日(木)
時間:20日 13:00~、21日 10:00~
場所:ANAインターコンチネンタルホテル東京(東京都港区赤坂1-12-33)
参加費:無料

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