11月20日、21日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京において、“マーケティングの未来を見に行く2日間”をテーマに、世界No.1サービスをリードするマーケターや、近未来のデファクトスタンダードの創造を目指すサービスクリエイター、更には人気芸能人まで、約70名に及ぶ各領域のトップランナーが登壇した『MiXER ~The Marketing Conference~』。
会計、労務管理、印刷、それぞれの業界を変革し、市場を創造し、国内No1のシェアを有するに至ったラクスル、SmartHR、freee。
b→dash CMOの三浦將太がモデレーターとなり、各社の「業界の常識を覆し、市場創造するまで」にハイライトを当て、爆速成長を実現する中で実践するマーケティング戦略、KPI、施策など、彼らが大切にしている『マーケティングセオリー』に迫った。

Case1 ラクスル株式会社

4年で売上25倍。爆速成長を遂げたラクスルが起こした
マーケティングにおけるイノベーションとは?

ラクスル株式会社 取締役CMO/アドプラ事業本部長  田部正樹 氏

まず、ラクスルの田部氏から事業概要と成長の軌跡、その裏にあったマーケティング施策の数々が説明された。

田部ラクスルは主にネットで『印刷』を提供するサービスです。ラクスルが登場する以前は、名刺やチラシなどを印刷しようとすると、基本的に営業を介在する必要があるのが市場の常識でした。営業が介在すればその分マージンをとられてしまいます。大量のロットでの注文の場合は営業のサポートを得られるというメリットもありますが、小ロットで注文する場合、営業のサポートは特に必要ないにもかかわらず、マージンの分、コストが高くついてしまうのが印刷業界の常識でした。この常識に対して、ネット化することで中間マージンをなくし、小ロットであっても、『印刷』を手軽に安く注文できるようにしたのが、ラクスルです
ラクスル参入当初、ネット印刷市場は大体600億円程度で、そのうち大半を大手企業が占めているような状態でした。ラクスルというサービスはその市場に最後発で参入したサービスです。
2014年段階でラクスルの売上は5~7億円程度でしたが、昨年170億円を達成し、4年間でおよそ25倍の成長を遂げました。

最重要のKPIは「新規会員獲得数」

田部「ラクスルが最重要視していたKPIは新規会員獲得数でした。もちろんリピートビジネスなので、リピートされれば伸びるのは当たり前ですが、新規で会員を増やし続けることも重要です。実際に、新規会員の獲得数と売上は比例して伸びている現象が見られています。」

ラクスルの常識外れのマーケティング投資

田部ラクスルは累計で約79億円資金調達していますが、そのうち約50億円を新規顧客獲得のためのマーケティングに投下しています。売上に対して約5%くらいの金額をマーケティングに投下するのが一般的にヘルシーなラインと言われていますが、ラクスルではそれを大きく超える形でマーケティングに投資をしました。市場の常識を破った、という意味ではラクスルが起こしたイノベーションの一つと言えると思います。

当時考えていたこととしては、仮にマーケティングにコストを投下した結果、単年で赤字になっていたとしても、ラクスルはリピートビジネスなので、2年で投下コストを回収するという前提に立つと、CPAが10,000円から20,000円でも数年後には黒字になる想定でした。

面白いのは、投資をすればCPA(発注1件当たりのコスト)が上がるのが普通なのですが、ラクスルの場合は下がっているということです。マーケティング投資額は10倍以上に増やしましたが、CPAは大型投資のスタート時点よりも半分以下に抑えられています。投資によって新規利用者数もリピート数も増加した結果、1件当たりの獲得効率が上がったのです。

まず回収期間を設定し、徹底的にマーケティングにアクセルを踏む手法は、リピートのあるBtoBビジネスにおいてラクスルが起こしたイノベーションだと思っています。

テレビCMをデジタルマーケティングのように運用する

田部もう一つラクスルのマーケティング施策で特筆すべきなのが、2013年から2014年から開始したテレビCMへの投資です。この二年の間でマーケティング宣伝費がいきなり2億から13億に増えていますが、それはテレビCMの影響が大きいと思います。

ラクスルがテレビCMを始める5年前は、誰もラクスルのことを知りませんでした。検索クエリ数で言ったら、ラクスルが5,000あったのに対して、競合の大手企業が80,000あるような状態でした。いわゆる純粋想起を取られている状態なので、WEBマーケティングだけだとこの状態をひっくり返せないと思いました。『ラクスル』というキーワードでの検索回数を増やすためのWEBマーケティング以外の方法、ということで、テレビCMを実施することを決断しました。

しかし、ラクスルにとってテレビCMをやることは博打要素が強かったのも事実です。なぜなら、『印刷』というビジネスの特性上、CMを見たタイミングで「チラシを刷りたい」となるわけではないからです。少しでもリスクを減らし、テレビCMの効果を最大化するために、私たちはテレビCMをデジタルマーケのように運用することに決めました。

具体的にいうと、テレビCMを全国的に放映する前に、ローカルエリアでABテストを実施しました。例えば最初は富山、石川、福井の三県で、ほぼ素人さん同然のキャストを使った、製作費が2本合わせて5百万円くらいのCMを打ちました。テストした内容は訴求軸です。『チラシ一枚1.1円』、『顧客満足度98%ネット印刷会社』など、様々な訴求軸を作ってどれが一番良いかテストしました。

少し当たったテレビCMは人口が3百万人以上の都市に移動し、再度テストします。それで良かったものを最終的には関東や関西のテレビで流すわけですね。東京で見られるラクスルのテレビCMは、半年前にローカルエリアでABテストしていたものです。

なぜテレビCMを成功させられたのか?

田部ポイントはメイクセンスする訴求内容を見つけることです。それが見つかれば、あとはCMで起用している役者さんを有名なタレントさんに変えて、タレントパワーでレバレッジをかければより大きな効果を狙えます。

この5年で『ネット印刷』業界の検索キーワードはほとんど伸びませんでしたが、『ラクスル』というキーワードは20倍くらいになりました。ネット印刷サービス=ラクスルという純粋想起を作れたからこそ、このような状況を作れたのだと思いますし、比較されずに指名されるようになった、という意味でブランディングが成功したと捉えています。

田部ラクスルのマーケティングが上手くいったのは、マーケティングが会社のイチ機能に留まっていたのではなく、経営の中枢にあったからではないか、と考えています。マーケティングはプロモーションをやるだけではなく、サービスやプロダクト自体に介入しながら、そのものを開発しようとする発想の転換が必要です。

Case2 株式会社SmartHR

99.5%が継続利用。毎月1,000社以上が導入する
人事労務クラウドサービスが起こしたイノベーションとは?

株式会社SmartHR 執行役員/VP of Marketing 岡本 剛典 氏

続いてSmartHRの岡本氏から、SmartHRの事業概要と急成長を実現したマーケティング施策の実施背景について説明を頂いた。

岡本SmartHRの概要から説明します。SmartHRは毎月1,000社以上が導入しており、現在累計30,000社が導入する人事労務クラウドサービスです。特筆すべきは継続利用率で、SaaSモデルでは継続率98%ならすごいところをSmartHRは99.5%となっています。

サービス内容を説明すると、人事・労務分野で行われていた紙でのやり取りをなくし、手続きを簡単にするクラウド型ソフトウェアです。具体的には、従業員情報やマイナンバー、年末調整に必要な情報などを収集・蓄積、手続きに利用できるサービスです。

人事担当者側から見ると、従来12ステップで人事労務業務を行っていたところ、SmartHRによって3ステップに減らせるメリットがあります。

SmartHRの急成長を実現したターゲットの変更

岡本SmartHRが急激に伸びた背景にはマーケティング方針の転換がありました。転換点になったのが俳優の速水もこみちさんを起用したCMです。当初、SmartHRはIT系の中小企業に利用されていました。しかしその後、飲食・小売り業界を中心にマーケティングしていく方針を決めました、

なぜそのようなターゲットの転換を行ったのかというと、飲食・小売り業界においてSmartHRの提供価値を最大化出来るためです。飲食・小売り業界は業界の特性上、アルバイト従業員数が多く、入退社や雇用契約更新の頻度が高いことが特徴です。そのため、書類手続きや管理の機会が多く、SmartHRで削減できるコストが大きいと考えました。

それ以外にも、『拠点が分散していて、紙でやり取りしているとコストがかかるため、SmartHRの提供価値がマッチしやすい』『誰でも知っている企業が多く、その導入企業ロゴを使ってさらなるプロモーションにつながる』などのメリットもあります。

岡本テレビCMにおいて速水もこみちさんを起用したのは、速水さんが以前『MOCO’Sキッチン』をやられていたことから、飲食業界の人に想起されやすいと思ったのがきっかけです。また、特に飲食業界の方に向けてアプローチをするために、コピーライティングも『飲食業界の人事の方々へ』と表現するなど変更を加えました。

実際にプロモーションを変えてから、導入企業の構成も変わりました。プロモーションを実施する前はITベンチャーを中心に、従業員数が1人から10,000人の企業が多かったのですが、プロモーション実施後は、飲食・小売業を中心に20,000人から数万人規模の企業様との契約が増えてきました。

価値を理解して頂く展示会マーケティング

岡本また他の施策では、展示会への出展も有効でした。SmartHRはサービス内容や価値が伝わりづらい面を持っています。そのため、WEBやオンラインだけのコミュニケーションでは限界があります。一方で、展示会では実際にSmartHRを触って頂くことで、価値を理解してもらえるので、マーケティングとして有効な打ち手でした。また、展示会でのリアルなコミュニケーションでターゲットユーザーと直接話が出来たのもマーケティング上、良い施策だったと言えます。

Case3 freee株式会社

利用事務所数100万以上。法人シェアナンバーワン会計給与ソフトfreeeが起こしたイノベーションとは?

freee株式会社 CMO 執行役員 川西康之 氏

最後にfreeeの川西氏より、freeeの事業内容と数多くのマーケティング施策を生み出すための組織作りのヒントをご教示頂いた。

川西まず簡単にfreeeの説明をします。freeeは従業員規模300人から500人の企業を中心に導入して頂いております。会計給与の領域では、法人シェアナンバーワンになっており、2019年12月には上場を予定しています(2019年12月17日に東証マザーズ市場上場)。

川西freeeのマーケティングの特徴はプロダクト開発に多くの投資をしてきたことです。プロモーションの観点では、プロダクトをいかに効率よく、適切なお客様に適切に提供し、適切に回収していくか、また様々なお客様に導入して頂けるようになっているか、そうしたことを意識しています。したがってKPIとしては、ARRや一つ一つの施策のROIを追っています。また指名検索のYoY(year over year)での増加も見ています。

個人事業主を動かした『バズ企画』

川西今日は特に個人事業主様向けの企画を紹介します。『軽減税率バズ企画』というものなのですが、かなり際どいクリエイティブになっています。正直、私はこの企画はバズらなくても良いと思っていました。というのも、本当に重要なことは、このような尖った新しい企画が次々出てくることだと思っていたからです。

昔からfreeeを応援して頂いているユーザーさんはこのような尖った企画が好きです。『やっぱりfreeeって面白いな』と思って頂くことが、使い続けて頂く理由になっていたり、広めて頂ける理由になった。

弊社が提供している マーケティングツール『b→dash』 は、マーケティングプロセス上に 存在する全てのビジネスデータを、ノーコードで、一元的に取得・統合・活用・分析することが可能なSaaS型データマーケティングプラットフォームであり、BtoC業界を中心に、様々な業種・業態のお客様にご導入頂いております。

Editor Profile

  • 福井 和典

    株式会社データX マーケティング管掌執行役員

    日本IBMにてシステムエンジニア、GREEにてCRM領域のオペレーション企画、PwCでの業務コンサルタントとしての経験を経て、2016年よりデータXに入社。データX入社後は、カスタマーサクセス部門に在籍し、小売/金融/アパレル/ECなど幅広い業種に対するb→dash導入支援を統括。
    その後は、主にb→dashのマーケティング/広報/PR活動や事業企画に従事。

Speaker Profile

  • 田部 正樹

    ラクスル

    取締役CMO

    アドプラ事業本部長

    1980年生まれ。中央大学卒業後、丸井グループに入社。主に広報・宣伝活動などに従事。2007年テイクアンドギヴ・ニーズ入社。営業企画、事業戦略、マーケティングを担当し、事業戦略室長、マーケティング部長などを歴任。14年8月にラクスルに入社。マーケティング部長を経て、16年10月から現職に就任。18年より、これまでのラクスルの成長を約50億かけてドライブしてきたマーケティングノウハウを詰め込んだ新規事業を立ち上げ、事業責任者を兼任している。

  • 岡本 剛典

    SmartHR

    執行役員

    VP of Marketing

    教育系ベンチャー企業のマーケティングリーダーを経て、2009年GMOクリック証券株式会社に入社。プロダクトマーケティング職を経て、マーケティング責任者に着任。デジタルマーケティングからマスマーケティングを統合したマーケティング・ブランディング戦略の策定・実行。2018年10月よりマーケティング責任者としてSmartHRに参画。

  • moderator

    三浦 將太

    フロムスクラッチ

    執行役員CMO

    東京大学大学院情報学環・学際情報学府にて、社会心理学・社会情報学を専攻中。国内独立系コンサルティングファームの船井総合研究所、リクルートマーケティングパートナーズを経て、2015年にフロムスクラッチに入社。入社以来、Chief Marketing Officerとして、b→dashのプロモーション/ブランディング構築、マーケティングコミュニケーションの企画と推進を担当。ガートナーカスタマーサミット、MarkeZine Dayなど、マーケティング関連イベントでの講演経験も多数あり。

About MiXER

2019年 11月20日〜21日の2日間、ANAインターコンチネンタルホテル東京において、“マーケティングの未来を見に行く2日間”をテーマに、世界No1サービスをリードするマーケターや、近未来のデファクトスタンダードの創造を目指すサービスクリエイター、更には人気芸能人まで、約70名に及ぶ各領域のトップランナーが登壇した『MiXER - THE MARKETING CONFERENCE』。初開催となった『MiXER』は、約3万のセッション申込数、約5千人の来場者が参加し、大変な盛り上がりの中、終了した。

日時:2019年 11月 20日(水)~ 21日(木)
時間:20日 13:00~、21日 10:00~
場所:ANAインターコンチネンタルホテル東京(東京都港区赤坂1-12-33)
参加費:無料

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